鳥居俊医師インタビュー1

2015年12月20日 08:57

 

Q:お忙しい鳥居先生ですが、現在の主なご活動について教えてください。

A:月曜日は病院での診察を行い、火曜日から金曜日まではこの早稲田大学にきています。また、隔週で国立スポーツ科学センターで主に陸上選手の診察をしています。

 

Q:多くの選手を診られてきた中で、以前と比べて最近感じられるよい変化と悪い変化などがあれば教えてください。

A:一生懸命やっている子や、レベルの高いところでやってきいる子、というのはいつの時代にもいたと思いますが、高いレベルでやっている子とやっていない子の差が、最近ではかなりあるのではないかな、と感じます。つまり二極化、ですね。

 

Q:子供の運動神経のようなものはいかがですか?以前と比べて向上しているな、と感じられますか?

A:これも二極化していると思います。色々な経験や体験の場を与えられている環境にいる子供はどんどん伸びていきますが、そういう場が与えられない子供というのは伸びにくいのかもしれません。

 

Q:指導者に関してはいかがですか?変わってきたな、と感じられますか?

A:ここ最近は、学校スポーツでの事故のことや武道必修化における柔道の件などがあり、10年前に比べるとだいぶ意識が変わってきな、というのは感じます。それはマスコミでスポーツ事故について頻繁に取り上げられたり、裁判などでも教員や指導者の責任問題をかなり追究するようになったから、ということもあります。ただ、意識が向上したから知識も向上した、というわけではないのかもしれませんが・・・。

 

Q:医師、トレーナー、協会やスポーツ界全体などにおいてはいかがですか?

A:子供のスポーツに関しての研究がだいぶ増えたな、感じますね。発育期におけるスポーツ医学の本なども増えましたし。それは2020年の目標があるから、というのもあるかもしれませんが、よい流れだと思います。

 

<スポーツ現場での安全管理について>

 Q:トレーナーやドクターのいないスポーツ現場では、ケガの対応はコーチや保護者が基本対応していると思います。万が一に備えて身につけておいてほしいスキルや知識、事前に準備しておくべきことはなんでしょう?

A:していいこと、と、してはいけないこと、の見極めが重要だと思います。しないほうが良い場合、というのもあります。それは医療従事者かどうか、ということだけではなく。自分の能力を超えるようなことはしてはいけないですね。それは医療事故でも同じです。自分のできる範囲を超えないところで、基本的な応急手当などのスキルや知識などは持っておいてよいと思います。

事前準備、ということろで非常に重要なのはネットワークを調べておくということです。普段練習しているグランドや体育館、遠征先から一番近い病院はどこにあるのか、その病院には何科があるのか、というのを事前に調べておく、ということはとても大切です。

 

Q:ジュニアスポーツ(小中学)や学校の部活動における、子供や生徒に対してのケアや安全面を向上させるには何が大切だと感じられますか?

A:環境面と人材面、ですね。環境面では、安全に活動できるか、という点です。日本の学校のグランドは決して広くはないですから、同時にいろいろな部活が行われています。学生たちの安全を確保する環境づくりのために何ができるのか、ということを考えなくてはいけません。

また、ジュニアレベルの時期は、練習のやりすぎにも注意が必要です。発達段階の子供に応じた練習量、ということも知っておくべきですね。

 

Q:アスレティックトレーナーが学校にいてくれたら、と思うのですが鳥居先生はどのように感じられますか?

A:理想はもちろんそうです。ですが一番のネックは経済的な問題です。お金はどこが、誰がだすのか?トレーナーも増えてきましたし、実際に資格を取った人たちの中にも学校スポーツに貢献したい、と思っている人もいますが、その人たちの身分を保証してあげないと長くは続きません。

部やチームによっては派遣トレーナーを週何回かの契約で雇っているところもありますが、お金に余裕のある学校やチームに限られてしまいます。財政が豊かな学校やチームにはトレーナーがいて、そうでないお金が厳しいところには、いない、というのは違うのでは?と感じていますが・・・。

 

Q:特に、首から上、頭頸部の外傷は怖いな、と感じるのですが、保護者は何を知っておくべきでしょうか?

A:どんな症状が危険なのか、ということを保護者の方も知っておいておくべきでしょう。意識がない、ということになればすぐに救急車ですが、そうではなく、気持ちが悪い、とか頭が痛いとか、脳にケガを負った際にどんな症状が出るのか、首や脊髄などのケガの場合は手がしびれるとか、足が突っ張る、とかがあるわけですから、それを知っておくべきでしょう。

症状についての知識があれば、症状が悪化してから病院につれていくのではなく、悪化する前に病院に連れていくことができますね。

 

<子どもとスポーツ>

Q:部活動もしくはジュニアスポーツのあるべき姿、子ども達の理想的なスポーツとの関わり方とはどのようなものだとお考えですか?

A:子供のスポーツはジュニア期で終わるわけではない、ということですね。まだその先があるわけですから、色々な経験をして、とにかく「楽しむ」ということがとても重要だと思います。

 

Q:ジュニアのスポーツ指導に関わる方に「これだけは知っておいてほしい」ということはありますか?

A:子供の身体と大人の身体の違いについては、知っておいてほしいですね。子供はまだまだ発達途中なわけですから、当然大人とは違います。その発達途中の身体にスポーツにおいて傷をつけてしまうと、成長を妨げてしまうことにもつながります。子供にはきちんと発育をさせてあげる、ということが重要です。

 

Q:現在の国内スポーツにおいて、指導者が子供の発育に応じた指導方法などを学ぶ機会、というのはあるのでしょうか?

A:今は講習会などで受講できるところもありますし、指導者資格制度のカリキュラムの中に組み込まれていることもありますが、すべての競技においてそうか、となると私もすべてを把握しているわけではありません。そこはやはり、指導者資格を発行している団体や協会がきちんとフォローすべきところでしょう。

学校スポーツ、に関しては文部科学省、そして今ではスポーツ庁というところがリードしていくべきですね。

 

Q:小学生レベルでいうとどうでしょう?

A:体育の専門の先生、というのが必要かもしれませんね。また、養護教諭の先生も、スポーツにかかわるケガについて知る機会、というのもあるといいでしょう。

 

Q:女子アスリートの保護者に知っておいてほしいことがあれば教えてください。

A:やはり無月経をそのままにしない、ということです。無月経は骨を弱くします。体重制限があるような競技、または、審美系のスポーツ、新体操や体操、フィギュアスケートなど、勝つためにはある程度の体重制限は必要である、として無理にしぼり、無月経になってしまう。

生理現象、というのは、”あるのが当然”で、”ないのは異常”なわけです。そこを、”ないのが当然”になってしまうと体にとって様々な問題が起きてくるわけです。骨が弱くなってしまう、というだけでなく、その他のけがにおいても治りにくくなったりします。本来女性の身体を守るべき女性ホルモンが低下してしまう、ということはそういうことなのです。

 

Q:長距離の選手などはいかがですか?

A:長距離選手もそうですね。中学校の早い時期から長距離を専門にやっている子などは、骨が増えにくいようです。

 

Q:しかし選手本人はなかなか相談する人が身近にいない、ということが多いのだと思います。その際にはやはり保護者に力になってほしいですね。

A:その通りです。

 

Q:もし親子で解決が難しい、誰かに相談したい、となった場合は何科に行けばよいのでしょうか?

A:それは婦人科ですね。中学生が婦人科を受診する、というのは抵抗があるかもしれませんが、例えば養護教諭の先生に相談してみる、ということでもいいのではないでしょうか?

そして、男女の違いという点でもう1つ、女性に起こりやすいケガ、というものがあることを知っておいてほしいですね。女子は関節系のケガが多いです。特に膝です。女子選手の膝のケガに関して、軽く考えないでほしいです。それは指導者の方も含めて、ですね。

 

Q:男子はどうですか?

A:男の子は圧倒的に骨折や打撲、が多いですね。

 

Q:高校時代は有名選手であったのに大学に入って伸び悩む子もいれば、高校時代は無名でも大学に入って伸びる子もいます。その違いはなんでしょう?

A:早熟な選手か、晩熟な選手か、というところがあります。早熟な選手は中学や高校でトップレベルで活躍しますが、その後ほかの選手に追いつかれてしまう、ということがあります。また、大学に入って環境が変わって力を出し切れない、専念しきれない、ということもあるかもしれません。

一方、中学や高校で限界までやらなかった子、やらされなかった子は、能力はあったけれどもその時には結果はあまり出せず、その後大学で厳しく指導されたり良い指導者に出会った子が、ぐっと追い込まれるトレーニングをして能力が全開になった、ということだってあるわけです。

 

Q:早生まれ、遅生まれ、ということは関係ありますか?

A:小さいころはありますが、年代が上がっていけばなくなってきます。

 

Q:ジュニア世代であまりにも頑張りすぎて、高校以降にバーンアウトしてしまう子供もいます。バーンアウトをさせないために親ができることはありますか?

A:バーンアウト、というのは目標がなくなってしまうと起きてしまいます。中学なら中学の大会、高校なら高校の大会で結果を残す!ということではなく、それは長い人生において通過点であるわけですから、それが全てではなく新たな目標設定ができるか、ということが大切です。

ジュニアの国際大会などでは日本チームは良い成績を収めていますが、シニアに上がるとなかなか勝てない、というのは、海外のチームはもっと長いスパンで選手を育てているからです。

 

Q:子供時代にはマルチに様々なスポーツを経験させた方がいい、という考え方もあるようですが、鳥居先生はどのように考えられますか?

A:私もそう思います。それには2つの考えがあって、1つは、マルチな能力を持っているほうが得だ、ということ。もう1つは、隠れた適性があるかもしれない、ということ。色々な事を経験させたほうが、「実はこんなことが得意だった!」ということや子供自身が、こっちのほうが面白い!と感じることができるチャンスが増えるからです。

 

Q:経済的な負担もあって、色々な習い事をさせる、ということも難しいこともあるかもしれませんが・・・。

A:それはスポーツをさせる、ということにとらわれなくてもいいと思います。例えば、子供にある動きをさせてみたら、その動作がとてもうまい!という発見があるかもしれませんし、子供自身が得意な動きをみつける、ということもあるかもしれません。ですから、動きを見る専門家がいるといいな、と思いますね。

 

Q:動きをみる専門家、といいますと?

A:スポーツを教える、ということに取らわれず、遊びの中で子供の得意とする動きを見て、それを伸ばしていき、成長段階にある子供のうちにしておくとよい運動、例えば体操やレスリング、相撲や格闘技などの要素を入れた運動指導ができる人、というイメージでしょうか?

 

Q:ジュニアスポーツや部活動における指導者資格制度、の必要性についてはどのようにお考えですか?今後必須にすべきでしょうか?

A:ジュニアのスポーツ指導における知識を改めて学ぶ必要はあるとは思いますが、あまり厳格にしすぎてしまうと、今度はなり手がいなくなってしまうというリスクがあります。ですから情報提供の場を増やすようにすると良いと思います。それは冊子を配布する、でもよいですしインターネットでもよいでしょう。やる気のある指導者の方なら、積極的に情報を得よう、学ぼうとすると思います。

 

Q:全ての指導者がそうであってほしい、とは願っていますが、学ぼうとしない、新しい情報を得ようとしない指導者も実際いるのではないでしょうか?

A:確かにそうですね。ケガを出しすぎる指導者、というのは問題です。指導者資格を徹底するのであれば、例えば資格更新するときに、チームで発生したケガ人の数であるとか、どんなケガが発生したのか、なども報告するようにしてもよいかもしれません。

 

(1)>(2)